第4章 ドキドキ!?宿泊研修。えっ!3年生だから参加しませんよ?
寮内の談話室に入ると、まるで通夜の席かと思うくらいにどんよりとしてる人間と、茶を飲んで人心地ついた鶯丸の様に落ち着いた様子の人間が卓を囲んでいた。
そして、何故か己が主は正座をさせられていた。
とりあえず、担いでいた人間を下ろして様子を伺う。
二人は少し疲れで重い足取りで卓の方へと近づき、2、3話してから、膝から崩折れ、顔を両手で覆いながら天を仰いだ。
第三者として、ハッキリ言おう。状況が全く読めない。
「あ、おかえりー。」「何だよ。」「んー、ちょっとね」
そう言って主は卓に乗った何かを見ていた。
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食べ終えた食器の片付けも兼ねて、談話室に足を踏み入れると卓に数冊のしおりが置かれていた。
遠月学園高等部一年生年間行事『宿泊研修』。
ファンシーなキャラや、学校の恒例行事の定文の『友情』や『ふれあい』等の文で綴られている学校行事のしおり。
学校行事のとはいえ、同年代の、家族以外の人とお泊りとなれば心躍り、楽しみで仕方なくなるだろうが、この学校の行事は大体違う。
全一年生強制参加なので読んで字の如くキャッチフレーズだが、その実、友情、ふれあいが、只々客寄せ用の決まり文句かと言う位。いっそ、清々しい位の唯の謳い文句。
『無情なふるい落とし宿泊研修』
それがこの学校の宿泊研修であった。
元々、遠月茶寮学園は料理界では名店、名料理人の登竜門とも呼ばれる位、その道を志す人が知らぬ者なしという名門。
中等部までが料理や経営等、将来店を出す上で必要となる基礎知識や一般的教養を懇切丁寧に学ぶが、高等部に入ると一変する。
容赦なく落とされる。
「ヘェ〜、面白れぇ、とこじゃねーか!用は強い奴だけが生き残るって事だろ」
簡単に先程起きた事をしおりを見せて説明すると戦場に降り立った際の笑みが浮かぶ。
「そうですね。まぁ、それは何処にいてもそうだと思うけど」
それほどに世の中はシビアだ。生き残る(屈指の料理人になる)というのはそれ程に難しいというだけの話。
ハッキリ言って神菜は自分が高校三年まで過ごせてるのが不思議なくらいだ。
「一色先輩の時は、連日何十人って退学にされて、数年前は半数近くが落ちたって聞いてその後」
「私が一年の頃は7割退学したって言った。」
Les Misérables
