第19章 事件後
「ネツキ…もう顔を上げなさい。みんないないよ。」
ヤマト隊長の声を聞いても私は頭を上げれず、ずっと下を向いていた。
「先ほどの、ヌイのお母さんが言った事を真に受けすぎてはダメだよ。忍びは死がいつも直面している事をお忘れになっている。忍びになるという事はいつも死を覚悟して任務に当たっているんだからね。」
忍びが亡くなっても決してここまで里の人間が取り乱さないのは、常に死を覚悟して子供を送り出しているからだ。
それでも今回のような身近な人間の反抗による殺傷事件は、あのイタチによるうちは事件以来の事であった。
「さあ、もう顔を上げなさい。明日からまた暗部の仕事が始まるんだ。立ち止まっていたら駄目になるよ。」
ゆっくり顔を上げ優しく微笑んだヤマト隊長を見た。ドス黒く深い闇の瞳で見つめれば、ヤマト隊長が一瞬目を見開き驚いていた。
「大丈夫です。やれます。頑張ります。」
まるでロボットのように声を発してその場を後にした。