第82章 君が望むもの
=氷室side=
氷室「・・・ね、高尾」
高尾「? なんすか?」
氷室「俺、さ・・・。」
“雅の好きな人知ったんだ”
氷室「・・・。」
高尾「氷室さん?」
氷室「・・・雅の・・・。」
言ってしまおうか。
ライバルに。そうさ、恋のライバルってやつだよ。
高尾はこんなので雅をあきらめないって
頭では分かってるつもりだけど・・・。
言いたくてたまらなくなる。
少しでも不安にさせたいって思ってしまう。
・・・最低だ。俺・・・。
高尾「?」
氷室「・・・雅のことが・・・好きだよ」
高尾「・・・は?・・・あー・・・前から知ってますけど・・・?」
氷室「っ・・・。」
高尾「ちょ、さっきからどうしたんすか。様子変・・・」
氷室「ごめん、なんでもなっ・・・え・・・?」
高尾「!?な、なんで、泣いて・・・!?」
いつもみたいに微笑みその場から立ち去るつもりだった。
なのに・・・。
俺の目からは涙があふれ出ていた。
氷室「な、んで・・・。」
高尾「もしかして、雅となんかあったんすか?」
氷室「・・・馬鹿なこと言わないでくれよ。そんなことないよ。俺は・・・」
・・・俺は?
そうだ。俺は雅が好きなだけ。それだけだ。
他に雅とはなんにもない。
そう言いたかった。
何故言葉がつまる・・・?
“なんにもない”といいたくないのか・・・?
雅と、なんにも関係がないと思われたくないのか?
なにを強がってるんだよ。なに張り合ってるんだよ。
いつから俺はこんな汚れた?
どこから間違った?
「氷室さんっ!」
ふと、彼女が笑顔で俺の名を呼ぶ姿が想い浮かんだ。
あぁ、そうか。
やっぱり・・・そうなのか。
雅、俺は君を好きになったときから
崩れていってた。君が原因だったんだ。
いや、あの瞬間までは崩れてなかった。
あの時君が・・・。マッサージで寝てしまった君の口から・・・。
「ひゅ、・・・が・・・せん、ぱい・・・」
あんな言葉、聞きたくなかった。