第11章 もう二度と戻らない
月明かりの下、記憶の中のおばさんを描いていく。その表情は、いつものハツラツとした笑顔だ。
物音ひとつしないシンと静まり返った中庭に、カリカリと私の鉛筆の音だけが響く。
今、一体何時なんだろう。すぐそこの部屋では仲間たちが眠っているはずなのに、まるで誰もいない世界に迷い込んだみたいだ。
思っていた以上に月明かりが明るくて、私はスイスイと描き進めていった。
だが、下描きを終えて本格的におばさんの表情の細部まで描いていこうとした時、私の手は止まり、目元はぼやけて見えにくくなってしまった。
「……っ」
次第と浮かび上がってくるおばさんの顔を見ていたら、胸をたくさんのナイフで突き刺されたような痛みが襲ってきて、それ以上描くことができなくなった。
私はスケッチブックを抱え込むようにして前かがみになり、声を押し殺して泣き始めた。
おばさん…、また会いたかった。「ライデンと一緒に会いに行く」って約束したのに、それを果たせなくてごめんなさい…。
私が寝込んだりしていなければ…、班長が報告に伺う時に同行していれば、そうすれば少しは会えたのかもしれないのに……。
ライデンも…おばさんも…、もういなくなってしまった。
私が唯一、家族も同然だと思っていた人たちは、もうこの世界のどこにもいない……。
私はこれから、一人きりで生きていかなければいけないの……?
どんなに話しかけても、笑いかけても、二人のあの笑顔が返ってくることはないの……?
「ううっ…うっ……」
涙が次々と溢れてきて、溺れてしまいそうだ。
苦しくて息ができない。このまま頭がどうにかなってしまいそうな気がする……。
誰でもいい、誰か、私を助けて……。ライデンやおばさんがやってくれたみたいに、誰か私の背中を撫でて……。