第9章 喪失
…左腕は肩のすぐ下から無くなっていて、右足は太ももの中間くらいからかじり取られている。
(どれだけ痛かったことだろう…どれだけ怖かったことだろう…)
私は無意識に、彼の残った右手に手を伸ばした。そして気がついた。
ライデンの手首に、うっすらと茶色く変色した布が巻きつけられていることに。
「何…?」
結び目を解いて、布を両手で開いてみた。
そして、愕然とした。
「これ、私があげたもの…」
広げた布の右端には、あまり上手とは言えない手技で、ライデンのイニシャルが刺繍されていた。
彼が訓練兵団に入団する際、私が餞別の品として贈ったものだった。
「なんで…こんなものをまだ持ってるの?こんなに汚れて、ボロボロになっているのに…」
ふと、さっき布の結び目を解こうとした時、その結び目が思った以上に固く結ばれていて、解くのに苦労した事を思い出した。
まるで、絶対に失くしたくないものみたいに…厳重に結んで…。
その時、ぶわっと私の頭の中を風が吹き抜けるようにして、ライデンとの思い出が次々と蘇った。
訓練兵団に入る時に言われた「お前のことも守れるようになってみせる」という言葉。
調査兵団で再会した時に、「無事でいてくれて本当に良かった」と言って抱きしめてくれた腕の温もり。
おばさんに会いに行った帰り道、絶対に生きて帰ろうと誓った約束。
数時間前、出発の時に見せてくれた太陽のような笑顔…。