第9章 喪失
「あ……」
私は、全身がマヒしたように硬直してしまった。喉の奥からは、何の意味も成さない音が漏れ出てくるだけだ。
そんな私の様子に気付いたらしい荷台の上の兵士が、沈痛な表情をして声をかけてくれた。
「辛いだろうが…早く運んで身体を綺麗にしてやろう。それが、生き残った俺たちにできる唯一の弔いだ」
そう言った兵士の目は、真っ赤に充血していた。
その彼だって、泣き叫びたいほど辛い気持ちだったはずだ。それなのに、それでも新兵の私を気遣って声をかけてくれた。
なのに…どうして私の身体は、指一本ですら動かないのだろう…。
その時、ポンと肩に手が置かれて、頭の上から声が降ってきた。
「俺たちが運ぶ。ラウラはついてこい」
見上げればそこには、ゲルガーさんとナナバさんの顔があった。
二人に運んでもらって、広場に敷かれた布の上に横たえられたライデンの遺体の横に、私はヘナヘナと座り込んでしまった。
心は固まっているのに頭の中が高速で回転しているみたいな、どう表現したらよいか分からない状態だった。
家族が死んだ時と同じだ。失ったものが大きすぎて、すぐには「失った」ということを理解できない。
目の前に横たわるライデンの遺体をただ見つめることしかできなかった。