第9章 喪失
それらを思い返した途端、ライデンが私に抱いてくれていた気持ちが、まるで雷のようにして私の中に落ちてきた。
それはビリビリと全身を震わせた。
(ライデンは…私のことが好きだったんだ…)
そう思った途端、今までのライデンの行動や、おじさんやおばさんのニヤニヤ笑いの正体をはっきりと理解した。
昔、動いているように見えるカラクリ絵を描いていたことがあった。あの時ライデンは、私の顔を描いたものを欲しがった。
私は「ライデンの顔を描いたものはあげたのに、何で私の顔のものまで欲しがるんだろう?よっぽどこのカラクリ絵が気に入ったのかな?」なんて思っていた。
そして結局、自分のカラクリ絵は完成させられないまま、いつしか次の絵へと興味が移っていってしまったのだった。
きっとあの頃からライデンは私のことを…。
彼は何度も私のことを「守りたい」と言ってくれていた。
それなのに私は、その言葉を「友愛」としてしか受け止めていなかったんだ。
きっとライデンの両親は、彼の気持ちに気がついていて、だから、鈍くていつまで経っても気がつかない私にガッカリするライデンを見て、ニヤニヤと笑っていたんだ。
若者の恋を見守るのは、大人からしたら多分、もどかしいけど甘酸っぱくて美しいものだから。
「ハンカチなんて…っ、何枚だってあげるのに…!私、ニブイから、はっきり言ってくれなくちゃ分からないよぉ…」
ボタボタと、大粒の涙がライデンの顔の上に落ちていって、頬についていた血と混じり合って透明な赤い水滴に変わると、下に敷かれた白い布に次々とシミを作っていったのだった。