第9章 喪失
平原に出た後、長距離索敵陣形を展開していくつかの村を通り過ぎた頃、右翼側で突然黒い煙弾が上がった。
黒い煙弾は、奇行種の出現を意味するものである。
その煙を見て、私はゾクリとした。
長距離索敵陣形は、通常種の巨人はただ回避するだけであるが、行動が読めない奇行種だけは戦闘せざるを得ない。
ドシン、ドシンという地鳴りが響いてきて、煙弾の上がった林の向こうから、胴体に腕をぴったりとくっつけたまま走ってくる巨人が姿を現した。
その特徴的な動きから、遠目にも奇行種であることがハッキリと分かる。
「……っ」
たずなを握る手に力が入る。
どうしよう、きっと索敵班の手を逃れてこちらに走ってきたんだ。…場合によっては、私たちが戦闘に対処しなければ……。
そんな考えが頭を巡り、いつ班長から戦闘の指示が出ても対応できるように身構えていた。
でも、班長は巨人の走って来た方角を確認すると、前に向き直って大声で言った。
「このまま前進!奇行種との戦闘は、索敵支援班に任せよ!」
え?と思ってもう一度、走ってくる巨人の方を見ると、その背後から数名の兵士たちが追いかけてくるのが見えた。
遠くてよく見えないが、方角から考えると、あれはライデンのいる班だろうか。
「進めーっ!!」
班長の号令により、私たちは馬の駆ける速度を上げた。
私は巨人が見えなくなってしまう前に、チラリと振り返ってその姿を目に焼き付けた。