第9章 喪失
薄暗い門の内側を走り抜けて外に出た時、目の前には旧市街地が広がっていた。
パッと見ただけでも、明らかに廃墟であることが分かるような荒廃ぶりであり、数年前までは人が住んでいたことを考えると、胸が切なくなった。
「平原に出るまでは隊列を維持せよ!その後、陣形を組織し展開する!」
前方から聞こえてくる指示に、私は何度も訓練で反復した内容を思い出し、不思議と冷静になっていった。
落ち着いてやればできる。不測の事態が起こっても、焦らず冷静に対処すれば大丈夫だ。周りには班長や先輩たちがいるし、ナナバさんがいる。
廃墟と化した街中を走り抜けていく中、時折屋根の上に、援護班の兵士たちの姿を見かけた。
彼らは今回の壁外遠征には参加せず、門の開閉時に巨人が中に入ってしまったり、出撃する兵士たちと鉢合わせたりしないように排除する役割を担ってくれている。
彼らが門の周辺にいた巨人を排除してくれたおかげで、私たちは門を開き、外に出ることができているのだ。
街中は建物で入り組んでいるため、時折巨人の取りこぼしがあるそうだ。
あんなに大きなものを見落とすなんて不思議な気もするが、建物の間で寝転がられていたりすると全く気づくことができないらしい。
だが今回は、そんな取りこぼしも無かったようで、私たちはトラブルもなく旧市街地を駆け抜け、平原へと出ることができたのだった。
〇
トロスト区からシガンシナ区までの距離は約100kmであり、その道中にはいくつもの町や村が点在している。
ウォール・マリアが破られて以降の調査兵団の活動は、この点在する町などに補給物資を設置することであった。
来るべきウォール・マリア奪還作戦を有利に進めるための布石である。
先日ライデンが内地に行っていたのは、この補給物資の調達任務のためだったのだ。
超大型巨人の襲撃以降、約2年続けられてきたこの任務は、ゆっくりとだが着実に進んでいた。
だが、トロスト区からの距離が離れて行くほど、任務の難易度は上がる。だから、まだ全体の行程の半分も終わっていない状況なのであった。