第9章 喪失
その後しばらく走ったところに、今回の目的地である町はあった。
途中、索敵班が発した巨人発見の合図により、進路がぐねぐねと変わったせいで、たった十数kmの道のりであったのに随分と時間がかかってしまった。
私たちは、見張り班と荷台からの積み下ろし班に分かれて、作業を開始した。
あまり力の無い私は、荷物を運ぶ班ではなく、運び込む先で荷物を整理しながら配置していく係になった。
整理整頓は得意な方なので、まさに適材適所といった感じで私は効率的に立ち働いた。
新兵には普段から倉庫の掃除などが任されているので、そういう業務での様子を上官が見ていて、今回のような配置になったのかもしれない。
何にしても、役に立てることが少しでもあるというのはありがたいことだ。私に出来ることを精一杯やろう。
次々と運び込まれてくる物資の配置を指示しながら、私はふとライデンの事を思った。
(ライデンは…無事だろうか。先ほど奇行種を追いかけてきた班、あれはライデンの配置されている索敵支援班ではないのだろうか…?)
急に私の脳裏には、父が巨人に食われた時の光景が浮かび上がった。
ゾクリと背筋に寒気が走るのを覚え、私はブンブンと首を振って、そのイメージを振り払った。
(きっと無事。だってライデンは今までに何度も生き残ってきたんだから。
それに、必ず壁内に帰って、また一緒におばさんに会いに行くって約束した!)
私は止まっていた手を再び動かし初めて、彼の無事を強く信じた。
物資配置の作業も無事に終わり、休憩時間を少し取ってから、私たちはトロスト区への帰還を始めた。
斜め前を走るナナバさんが声をかけてくれる。
「今回は巨人との遭遇も少なくて、比較的穏やかだったと思う。でも、壁に着くまでは気を抜いちゃダメだよ?あと少し、頑張ろう」
「はい!」
私は、ふつふつと湧いてくる達成感を噛み締めながら、大きく頷いたのだった。