第9章 喪失
「あれ?ラウラはライデンと知り合いだったの?随分親しそうだったけど」
私たちのやり取りを見ていたナナバさんが、不思議そうな顔をして尋ねてくる。
それもそうだろう。入団して2ヶ月足らずの新兵が、同期以外で兵団内に親しい知り合いがいるということはあまりない。
ナナバさんのように同じ班に配属されて仲良くなったのならともかく、そうでもなければそれほど知り合う機会もないのだ。
「幼馴染なんです。彼の方が2年入団が早かったから、兵士としては先輩なんですけど」
「へぇ。ライデンも隅に置けないな。ラウラみたいな可愛らしい幼馴染がいるなんて」
「いやいや…何を言うんですか…」
私はどう返答したらいいのか分からずに、何とも形容しがたい困惑の表情を浮かべた。
だって私は別に可愛くない。
顔はボールみたいに丸いし、身長だって低くて子どもみたいだ。私はもっと身長が高くなりたかったし、顔だってシュッと細長くなりたかった。そう、理想を言えばナナバさんみたいな…。
まぁ、ちょっとそれは理想を高く持ち過ぎだけど。
「開門―っ!!」
そうこうしている内に、エルヴィン団長のよく通る声が響き渡った。
「前進せよ!!」
その号令と共に、隊列の前方の班から順番に走り出した。
いつもは固く閉ざされている外門の扉が、砂埃を上げながらゆっくりと上げられていく。その下を、次々と兵士たちが飛び出していった。
壁内にいる兵士たちがどんどん減っていって、ついに私たちの班も馬を走らせ始めた。
馬が走る振動、近づいてくる門、沿道で見物している人だかりから聞こえるざわめき。
とても不思議な気持ちだ。ほんの3年ほど前までは、私はあの人だかりの中にいた。
それが今は、絶対になることはないだろうと思っていた調査兵団の兵士として、壁外に赴こうとしている。
人生、どうなるかなんて本当に分からないものだ。