第9章 喪失
壁外調査当日の朝は、雲一つない青空に恵まれた。
初陣であるという不安と巨人への恐怖はあったけれど、やっと巨人の姿を見て絵を描けるのかと思って、私の胸は創作意欲ではち切れそうになっていた。巨人を見るのは、実に3年ぶりのことである。
班ごとに整列して、エルヴィン団長の号令を待つ。
私の斜め前方には、騎乗したナナバさんがいる。やっぱり、今までに幾度となく壁外調査を経験してきているだけあって、とても落ち着いている様子だった。
もっとも、ナナバさんはいつでも冷静沈着だから、慌てているという場面を見たことがない。
「ラウラ、3回大きく深呼吸しな。そんなにカチコチになってたら、馬で走ることもできないよ」
くるりと振り向いたナナバさんは、馬鹿みたいに身体を固くして緊張している私を見て苦笑すると、そう言ってアドバイスをくれた。
スーハーと、肩を上げ下げしながら大きく深呼吸をする。少しは緊張が解けたような気が…しないでもない。
とそこで、私たちの班の横を、索敵支援班の兵士たちが通りかかった。その中にライデンの姿を見つけて、私の胸はホッと軽くなる。
そんな私に気づいたのか、ライデンは例の太陽のような笑顔を浮かべて声をかけてくれた。
「ラウラ、いよいよだな。新兵はまずは生きて帰ってくることが目標だ。先輩たちによくついて、頑張れよ!」
そう言うライデンの表情は落ち着いていて、やはり今までに何度も壁外調査で生き残ってきたのだという頼もしさを感じた。
「おいライデン、行くぞ」
ライデンより二馬身前にいた、顎ヒゲを生やした男性兵士が声をかけてくる。
「はい!」と返事をすると、ライデンは馬の蹄の音をパカパカと鳴らしながら行ってしまった。
だけど、背中を向けたまま手をヒラヒラと振ってくれている姿から、彼の優しい性格がとても感じられた。