第2章 奪われたもの
「調査兵団を見てくるから!行ってきまーす!」
私の手を引っ張りながら、玄関の扉を勢いよく開けたエリクは振り返って、居間にいた他の家族達にも元気よく言った。
「気をつけるんだよ。あんまりはしゃいで、人にぶつかったりするんじゃないよ?」
「ははは、エリクは本当に調査兵団が好きだなぁ」
台所で洗い物をしている母と、居間のテーブルでお茶を飲んでいた父が返事を返してくれる。
「毎回毎回、よく飽きないなぁ、お前は。俺なんか、一回見れば十分って思っちまうけどな」
窓際の椅子に腰掛けて、花瓶に挿した花をスケッチしていた兄も、こちらを振り返って言った。
兄さんはよくその席に座って絵を描いている。
静物画が得意で、特に花なんかはまるで今にもかぐわしい香りが漂ってきそうなくらい瑞々しく描くことができる。
弟も、頻度は高くないけれど、たまには絵を描くことがある。だけど正直あまり上手ではない。それが分かっているからか、本人もあまり描こうとはしない。
私たちきょうだいは全員、その頻度に差こそあれ、日常的に絵を描いている。なぜなら、私たちの父は画家だからだ。
父は画家として生計を立てて、私たち家族を養ってくれている。
得意としているのは風景画で、父の絵を見ているとまるで自分がその景色の中にいるかのような気分になれるのだ。行ったことのない場所でも、ありありとその場の風景を思い描くことができた。
私は父の絵が、何よりも好きだった。