第8章 出発前夜
結局その後は夕食の時間までナナバさんの部屋で過ごし、夕食も一緒に食べに行ってしまった。
食堂ではゲルガーさんも合流して、ワイワイと楽しく過ごした。
初陣の前夜とは思えないほどリラックスしていて、とても良いコンディションだった。
もしかしたら二人は、私の緊張を和らげてくれようとしているのかもしれなかった。
いつもよりも饒舌に話しているナナバさんとゲルガーさんに、私は心の中でこっそりと感謝した。
明日は絶対に生きて帰ってくる。帰ってきて、巨人の絵を描くんだ。そしてまた、ライデンと一緒におばさんに会いに行く。
私は、いつまでも家の前に立って手を振ってくれていたおばさんの笑顔を思い浮かべた。
夕食後、二人と別れた私は、真っ直ぐには自室に帰らずにある場所へと向かった。
調査兵団に入団して2ヶ月近くが経過しており、兵団施設の構造も随分と分かってきていた。
そんな中で私は、落ち着いて絵が描けるスポットをいくつか発見していたのだ。
自室は大部屋であり、常に何人もの同期がいてガヤガヤと騒がしい。
絵を描き始めてしまえば周りの音は聞こえなくなるので、それは全く気にならないのだけれど、多分私が集中して絵を描いていたら、そっちの方が皆に気を使わせるだろう。
だから私は、最近はもっぱらそれらのスポットで絵を描くようにしていた。
一つは、男性兵士宿舎との間にある中庭。
そしてもう一つは、宿舎玄関ホールの脇にある小さな待合室だ。
中庭は夜になると真っ暗で手元が見えなくなってしまうが、待合室の方は消灯時間まではランプが灯されているので、個別に油を消費してしまう心配もない。