第8章 出発前夜
家族のことを思い出してぼうっとしていた私に、ナナバさんがパンッと手を打って言った。
「よし!暗い話はここまでだ。
色々と脅かすようなことを言ってしまったけど、ラウラは明日は”生きて帰ってくる”ことだけを考えていればいい。
困ったらいつでも私たちを頼れ。次世代の希望である君たち新兵を、むざむざ巨人に食わせるようなことはしない」
「…っ、はいっ!頑張りますっ」
心地よい低音で言われた頼もしい言葉に、私は勢いよく返事をした。
「じゃあ、いよいよ本題に入ろう」
「え?本題?」
「あぁ。実は先日内地に行った時に買ってきた菓子があるんだ。
ラウラも聞いたことくらいはあるだろう?チョコレートってやつだ」
得意げに言って、ナナバさんは机の引き出しから、平べったい正方形の箱を取り出してきた。
「チョコレート?!それってすごく高価なものなんじゃないですか?」
「そのとおり!」
ジャーンと効果音をつけてナナバさんは箱のフタを開けると、私の鼻先へと差し出した。
ふわりと甘い香りが漂う。
「これを一緒に食べようと思ってさ。ま、明日に向けての景気付けだよ」
ニコリといたずらっぽく笑うと、ナナバさんはポイッとチョコレートを口に放り込んだ。
「これも、食べ残していったらもったいないだろ?」
そう言ってナナバさんは、私の口にもチョコレートを放り込んだのだった。