第36章 束の間の日常
〇
もう日も暮れかかった頃になってやっと、エレンが目を覚ましたのだった。早朝の実験からほぼ丸一日が経とうとしていた。
エレンの身体の心配をするよりも絵に没頭していた私が言えたことではないのだが、それでもやはり私はほっとした。目が覚めて本当に良かった。 顔が元通りになって良かった…。
「そんな…丸一日寝てたなんて…」
呆然とするエレンに、さっそくハンジ分隊長が実験の結果を伝え始める。
「さて…これからだが、硬質化できないってことがわかった今、進むべき道は定まった。次はウォール教とその周辺の追求だ」
実験結果について一通りの説明を終えた分隊長は、今後の方向性について話を移してゆく。巨人の硬質化能力で作られたと思われる壁についてだ。
「その謎を知ることができるのが、人類の最高権力者である王様でなくて、なぜレイス家なのか…。きっと…王都に行ったエルヴィンが何か掴んでくるはずだ」
分隊長がそう言った時だった。にわかに階下が騒がしくなり、モブリット副長が階段を駆け上ってきた。
「分隊長!エルヴィン団長からの伝令です!」
「わかった。リヴァイ、それからラウラも来てくれ」
分隊長はベッドから腰を上げた。