第36章 束の間の日常
それらのたくさんのスケッチを見下ろしながら、推敲しているハンジはとても楽しそうだった。こいつは筋金入りの巨人バカだから、こんなに巨人の絵があったら、そりゃあ嬉しいだろう。
息遣いがだんだん怪しくなってきているが、モブリットもすぐそばにいるし、多分大丈夫だろう…。
リビングの大きなテーブルいっぱいに広げられた絵の一枚一枚をゆっくりと見て回っていると、ラウラがおずおずと近寄ってきて小さな声で言った。
「あの…兵長、今回も私、ご迷惑をおかけしてしまったみたいで…いつもいつも本当に申し訳ありません」
言い終わるやいなやガバッと下げられた小さな頭に、俺は(何を今更)と笑いだしそうになるのをこらえて、だが班員達の手前、努めて普段通りの表情で返事をした。
「いや…、お前は自分の仕事をしただけだ。そして、お前が絵を描けるようにサポートするのは俺の仕事だ。だから気にする必要はない」
そう伝えたものの、ラウラがしゅんと肩を落としているものだから、まるで弱った小動物に感じるような庇護欲が湧き上がってきてどうにも抑えがたく、人前であったが思わずラウラの頭をポンポンと撫ぜてしまった。
「お前はよくやった」
「…ありがとうございます、兵長」
俯いたラウラの顔は見えなかったが、髪の間から覗く小さな耳は夕陽のように真っ赤に染まっていた。