第36章 束の間の日常
それから数時間後、昼も過ぎた頃になってやっとラウラは「こっち側」に戻ってきた。相変わらず、時間を忘れて絵に没頭しちまうようだった。
ラウラの変化に最初に気づくのは大抵俺だが、その次に早いのは意外にもハンジだ。奴も好きなもののことになると夢中になって我を忘れることがあるので、どこかラウラと通じ合うものがあるらしい。だから、周りの者にはさっぱり分からないが、二人の間だけでは話が成立しているなんてことが時たまある。
「ラウラ、戻ってきたかい?それじゃ、さっそく絵の確認をさせてくれ。清書して欲しい絵も決めないとね」
まだ少しぼんやりとしているラウラに、ハンジはそう声をかけた。
ハンジは、すでに提出されているモブリットの絵と、ラウラから受け取った絵をリビングテーブルの上にずらりと並べた。とてもラウラとモブリットの二人だけで描いたとは思えない量である。
並べられた絵を俺もハンジの横から覗き込む。モブリットの絵は、まさに報告書に添付するために描かれたような正確で丁寧なものであり、あいつの真面目さが伝わってくるような絵だった。資料としての見やすさで言ったら、モブリットの方が断然上だろう。
一方のラウラの絵はと言うと、走り描き程度の簡単なスケッチばかりなのだが、中には妙に描き込まれているものもあって、相変わらず異様な迫力を放っていた。ラウラの絵は資料というよりは芸術品といえるだろう。