第36章 束の間の日常
実験で使用した機材などを抱えて、104期のガキどもがドヤドヤと山小屋の中に入ってくる。
抱えていた荷物をテーブルの横に置きながら、コニーが少し遠慮がちに目をラウラに向けるのが分かった。そのまま少しの間黙って見つめているものだから、普段の奴らしくない様子が気になって俺は声をかけた。
「おい、どうかしたか」
「あっ、いえ…!その…」
「なんだ」
「…ラウラさんって、絵を描いている時と普段の様子が随分違うなって思って…」
それを聞いて俺は思わず口元が緩んでしまった。
「怖ぇか?」
「は、はい。あっ、いえっ、そのっ」
素直に心情を述べてしまい狼狽するコニーの姿に、俺は笑いだしそうになるのを我慢するのに必死だった。嘘のつけない奴だ。だが、その感想は間違ってねぇ。
はっきり言って、絵を描いている時のラウラの顔は怖い。100人中99人がそう言うだろう。残りの一人は俺だ。初めて見た時はそりゃあ驚いたもんだったが、俺は怖いと思うよりも…美しいと思ってしまった。だから今こんな関係になれたんだがな。
「コニー!こっち手伝ってくれよ!」
「ジャン!お、おう、分かったぜ」
気の利く同期に呼ばれて、コニーはそそくさと小屋を出て行く。その背中を見送ってから、俺も作業に戻らなければと足を踏み出しつつも、チラリとラウラの顔を振り返った。
そこには狂気じみた表情を浮かべる横顔があって、大きく見開かれた瞳が瞬きもせずに手元の絵を見つめ続けていたのだった。