第36章 束の間の日常
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ひとまず俺達は、もといた山小屋へと帰ってきた。巨人化の後遺症で激しく身体(主に顔面)を損傷したエレンのことは、2階の寝室で休ませて、残りの者たちで周辺の警戒を続けた。
ラウラはと言うと、相変わらず我を忘れて絵を描き続けていた。山小屋に戻る荷馬車の中でも、山小屋に着いてからもそれは変わらなかった。
「おい、着いたぞ」
無駄だと分かっていたが、とりあえず声をかけてみる。しかし予想した通り、やはりラウラがそれに気づくことはない。俺は先ほどやったのと同じようにしてラウラを抱き抱えると、山小屋の扉を通り抜けた。
ひとまずリビングの椅子に腰掛けさせると、ラウラはそのままテーブルに突っ伏すようにしてスケッチブックに鉛筆を走らせ続けるのだった。
サラ、と髪が垂れたので、邪魔だろうと思いそっと耳にかけてやる。手触りのよい髪に、小さな耳。あぁ、ちくしょう。こんな事考えてる場合じゃねぇのに、あの耳にかじりつきたい何て思っちまう。俺もいよいよダメかもしれない。