第36章 束の間の日常
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ハンジから撤退命令が出た後も、ガリガリとスケッチブックに描き続けているラウラの姿を見つけて、俺は「しまった」と思った。今の混乱の中で、ついラウラから目を離しちまった。
「おい、撤退だ」
先程から何度もやってやったように、ポンポンと肩を叩いてみたが、やはりというか当然というか、ラウラからは何の反応もなかった。コバルトブルーの大きな瞳を見開いて、例の狂気じみた目でエレンの事を見つめ続けているのだった。
(久々にこの目を見たな。やはり、堪らなく魅力的だ…)
だがこの状況ではゆっくりと見つめてもいられない。いくら俺の頭の中がお花畑になっちまったとは言え、時と場合くらいはわきまえなくちゃならねぇ。
「チッ…少し目を離したらすぐこうだ」
俺はラウラの腕をつかんで肩に担ぎ上げようとしたが、ふと手が止まった。そうして、特に何か意図があった訳ではないが、ラウラの膝裏にも手を差し入れて、抱えるようにして抱き上げたのだった。