第36章 束の間の日常
間髪入れずに発せられた副長のセリフに、ミカサの気持ちを考えれば当然のことだと思ったが、どちらかと言うと私は分隊長の気持ちの方が理解できるのだった。実際のところ、私の頭の中もエレンを心配する気持ちよりも「描きたい」という思いの方が強かったから…。
結局、興奮する分隊長をこれ以上このままにする訳にはいかないと思ったのか、ミカサがブレードを振り上げて、エレンの融合部分を断ち切った。
エレンの身体を抱えたままドサッと尻餅をついた分隊長は、その衝撃でやっと我に返ったのだった。
私は、崖の上からその一部始終を観察していた。近くからの観察は副長がやってくださっているから、私は俯瞰的な記録の作成に努めようと思ったのだ。
分隊長達が行ってしまった後、崖上には私と兵長、ヒストリアしか残らなかった。崖下は騒々しいが、崖上は人が少なくなったせいで途端に静かになる。
きっとそれが悪かったんだと思う。私はいつの間にか平常心を失い、絵に没頭していく自分を抑えられなかった。
「実験は終了だ!!総員直に撤退せよ!!」
そう叫んだハンジ分隊長の声も、もはや私の耳には聞こえていなかった。