第36章 束の間の日常
地面に倒れているエレン巨人は、身体のところどころの骨がむき出しになっていて、兵長が指摘した通り肉が足りていないようだった。
それにむき出しになっていたのは骨ばかりではなく、うなじからはエレン本体の足が飛び出していた。
うなじを切り裂き、何とか露出したエレンの上半身を、ハンジ分隊長が後ろから抱え込むようにして引っ張る。だが、その身体は強く巨人の身体と融合しているようで、皮膚がめいいっぱい伸びきっているにも関わらず離れる気配がなかった。
それでも分隊長が力任せに引っ張ると、ブチブチと嫌な音を立ててエレンの肉や皮が引きちぎられていく。ちぎられた部分から血が溢れ出すのを見て、ミカサはほとんど半狂乱になって叫んだ。
「ハンジさん待って、エレンから血が出ています!代わってください!!」
だけど分隊長はそれには答えず、というかまったく聞こえていない様だった。
「うおおぉ、見ろモブリット!!エレンの顔が大変なことになってるぞ!!」
ブチッ、と乱暴に分隊長はエレンの顔を回して、傍らに控えていた副長の方を向かせた。その拍子にさらにちぎれた箇所から血が吹き出す。
「あぁ!!」
ミカサの顔色はもはや蒼白だ。だがそんな彼女の悲鳴も、分隊長の耳には届かない。
「急げ!!スケッチしろ!!これ元の顔に戻るのか!?後で見比べるためにいるだろ、早くしろ!!」
「分隊長!!あなたに人の心はありますか!?」