第36章 束の間の日常
痙攣したように震えていた身体が、やがてぐったりと力を失って地面に伸びる。
「どうしたエレン!!もうおしまいか!?立てぇえ!!人類の明日が君に懸かっているんだ!!」
分隊長が必死の呼びかけをしたが、エレンからは何の反応も返ってこない。
「立ってくれぇえ!!」と、なおも声をあげる分隊長に、兵長が後ろから声をかけた。
「メガネ、今度は様子が違うようだが?」
兵長の冷静な声とは対照的に、分隊長は「わかってるよ!!」と大きな声で怒鳴り返す。
分隊長は何度もエレンに何らかの合図を送るように声をかけたが、それに対する反応は見られない。分隊長の横ではモブリット副長が懐中時計で時間を計っていたが、どんなに待ってもエレンに変化は見られず、ただただ秒針が進んでいくだけだった。
そんな中、崖下で馬に乗って待機していたミカサがこらえきれずにまたもや走り出してしまった。
「オイまた独断行動だぞ、あの根暗野郎は。処分を検討しとくか?」
2回目の巨人化の際のことを思い出されているのか、兵長が眉をひそめる。
「イヤ、合図が無い。ここまでだ!」
それをサラリとかわして、というかあまり耳に入っていない様子の分隊長が崖を飛び降りて行く。懐中時計を懐にしまったモブリット副長もそれに続いたのだった。