第36章 束の間の日常
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翌朝、まだ陽も昇りきらない内からエレンの巨人化実験は開始された。
実験場所は山小屋から更に山奥に入って行ったところにある洞窟だ。ウォール・マリアの大穴を模したもので、鬱蒼とした森の中で唯一開けた場所でもあった。
実験の流れとしてはこうだ。まず洞窟の前でエレンに巨人化してもらい、昨日の夜に作戦会議でまとめられた案を一つずつ検証していく。その様子を、観察チームは洞窟の真上に切り立った崖の上から観察する。本当はもっと近くで観察したいのだが、あまり近くにいては、エレンの巨人化の衝撃にうっかり巻き込まれかねないから仕方が無い。
私にはいつも通り記録の役割が与えられており、崖の上からエレンの巨人化実験の様子をスケッチしていたのだった。分隊長はこの上なく楽しそうな様子で、エレンが巨人化した後は立体機動であちこち飛び回りながら実験を指揮していた。
そんな分隊長からの指示を聞き漏らしてはいけないので、私はあまり絵に集中し過ぎることが無いように気をつけてはいたが、すぐそこに巨人の大きな身体があるかと思うと創作意欲に火がついて、ついつい夢中になってしまいそうだった。