第36章 束の間の日常
「あ…、じゃ、じゃあ私は食器を片付けますね…」
私はくるりと兵長に背を向けると、兵長の使った食器を片付け始めた。と言っても、整然とトレーにまとめられた食器は、これ以上片付ける必要も無い。せいぜい、後はトレーごと洗い場に持って行くくらいだ。
トレーの取っ手に手をかけて、私は食器を下げようとした。だけど…、ポトリとひと雫、水滴が手に落ちた。それは次々と落ちてきて、またたく間に私の手を濡らした。気が付くと私の両頬には涙が筋を作っていたのだった。
突然の涙に、自分自身でもびっくりした。これは何の涙…?いや、理由は分かっている。本当に子どもじみていてバカバカしい事だとは思うけれど…私は、兵長にキスして欲しかった。なんで…あの日以来してくださらないんだろう…?私に興味が無くなった?もう好きではなくなった…?
いや、それも違う。だってそうだったらさっきの兵長のあの優しい眼差しはなんだったというの?ただの部下をあんな目では見ない。変わらず兵長は私のことを想ってくださっている…と思う。でも、だったらなんで…?