第36章 束の間の日常
「終わりました」と言おうとした時、サラリと髪を指ですかれ、はっとして顔を上げる。ベッドに腰掛けた兵長が私を見下ろしていて、その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
(兵長…)
頭を撫でていた手が降りてきて、今度は頬を撫ぜられる。正面から兵長と目が合って、ドキドキと胸が高鳴った。
私はうっとりとして兵長の顔を見上げていた。頬を撫ぜる少しだけカサついた手の感触が心地よい。胸は張り裂けそうにドキドキと鼓動しているけれど、息苦しさはなくて、安心感さえ覚える。
(もしかしたら今回こそは…)
はしたないとは分かっているけれど、そんな期待が胸の中に沸き上がってくる。私は…兵長が好きだ。もっと兵長と触れ合いたい。キスして欲しい…。
なのに、私のそんな期待など全く気づかれる事もなく、兵長の手は離れていってしまったのだった。
「手間をかけたな。ありがとう」
そう言って兵長は私を立たせると、処置に使った道具を片付け始めた。