第36章 束の間の日常
「熱っ」
咄嗟に手を引っ込めた私に、ガタンと兵長が椅子から腰を上げる。
「おい、大丈夫か」
そう言って兵長は私の手を取ると、少しだけ赤くなった指先を確認した。
「大したことはなさそうだな」
だが兵長は私の手を離すことはなく、部屋の隅に置かれていた水桶にかけられていたタオルを手に取った。水に濡れたタオルでそっと指を包まれて、その上から兵長の手で握られる。
「念のため冷やしておけ」
「あ、ありがとうございます」
かぁーっと頬が熱くなって、私は俯いてしまう。その時、桶の横に救急箱が置かれていることに気がついた。なぜ兵長の部屋にこんな物が…と思ったが、すぐにあることに思い至ったのだった。
(そうだ!色々あってすっかり忘れてしまっていたが、兵長は女型の巨人との戦闘で負った足の怪我の治療中だった)
作戦が始まる前、古城で待機していた時までは、毎日の処置は私の役目だったのに。壁外から戻ってきて、寝込んでいたりラガコ村の調査に行ったりで、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた!