第36章 束の間の日常
若者達の間でそんな会話が繰り広げられているとも知らず、温め直したスープを持って私は兵長の部屋の前に立っていた。
部屋の扉をノックしたいが、食事を乗せたトレーで両手がふさがっているため、それができない。だけど、悩む間もなく扉が内側から開かれ、兵長がひょっこりと顔を出したのだった。
「おう、来たか。わざわざ悪いな」
そう言って扉を押さえていてくれる兵長の横をすり抜けて、私は無事に部屋に入ることができた。何だか以前にもこんな事があったような気がする。
トレーをテーブルに置くと、兵長は静かに挨拶をした後食べ始めたのだった。私はその横に立って、食事と一緒に持ってきた紅茶の準備を始めた。
ガツガツと、決して下品ではないが男性らしい食べ方をする兵長の姿をチラリと見下ろしながら、カップに紅茶を注いでいると、同じくチラリと見上げてきた兵長と目が合う。
(あっ)
その瞬間、ドキンと胸が跳ねて、熱くなったカップに指が少し触れてしまった。