第7章 穏やかな日
「私の方こそ…ずっと連絡もできずにごめんなさい…」
私はブンブンと顔を振って、この3年間ずっと心の中にあった思いをしゃくりを上げながら言った。
あの日、超大型巨人の襲撃によって奪われたものは数え切れない。気が狂ってしまいそうなくらい悲しい出来事が、いくつもあった。
悲しいことが一度に起こりすぎて、私の心はマヒしてしまったみたいになって、何をすればいいのかも分からなくなっていたんだ。
まるで小さな子どものようにおばさんの膝に顔をうずめて泣いている私の背中を、おばさんはゆっくりと、何度も何度も撫でてくれた。
そしておばさんの背中には、鼻を赤くしたライデンが手を添えていたのだった。
〇
玄関先でわんわん泣いていた私たちに、おばさんのお兄さん、つまりライデンのおじさんが「家ん中に入ったらどうだ?」と優しく声をかけてくれたので、私たちは小さな中庭に面したリビングへと移動した。
おばさんが椅子から立ち上がる時には、ライデンがその身体を支えてあげていて、流れるように自然な動きに「やっぱりライデンは優しいなぁ」なんて今更ながら思ったりした。
私たちはしばらくの間、会えなかった時間を埋めるようにして様々なことを話した。
巨人の襲撃を受けた後どのように過ごしていたのかとか、家族がどうなったのか、とか。
私が巨人の絵を描くために調査兵団に入団したことは、すでにライデンが手紙で伝えていたらしい。
リビングの椅子に腰掛けたおばさんが、しみじみと私の顔を見つめて言った。
「ラウラちゃんは、昔から本当に絵が上手だったものねぇ…。いつかきっと、お父さんみたいな絵描きさんになれるわよ」
久々に聞いた「お父さんのように」という言葉に、私は背中を優しく押されたような気持ちがした。
私は大きく頷いてから、決意を新たにするようにして言った。
「はい、兄さんとも約束しましたから」