第6章 壁外調査に向けて
ゲルガーさんの言ったことの意味が分からずに、私は思わずポロリとパンを落としてしまった。
スープ皿の横に転がったパンを、ナナバさんが拾い上げて私の手に持たせてくれる。
「ゲルガー、君はまず自己紹介をしたらどうなんだ?」
「おっと、そうだったな。俺はゲルガーってんだ。ナナバとは昔からの付き合いだ。よろしくな!」
差し出された手を、慌てて握り返す。
握った手にはゴツゴツとした固い豆がいくつもできていて、そのことだけで彼が、よく訓練をしている兵士なのだということがすぐに分かった。
だが、私が知りたいことは他にもあった。
「あの…『画家』ってどういうことでしょうか?」
おずおずと尋ねた私を見て、ゲルガーさんだけでなくナナバさんも、驚いたようにポカンと口を開けた。
「なんだ君、自分で気づいていなかったのか?君は新兵の中でも一番と言ってもいいほどの有名人なんだよ。
なんて言ったって、入団式の時の『巨人の絵を描きたい』発言がインパクトあったから」
「そうだぜ~!しかも、そんなこと言うもんだからすぐにハンジさんに目をつけられて、俺たち先輩連中は不憫にすら思ってんだ」
ガハハ、と愉快そうに笑うゲルガーさんは、口の端にパンくずをくっつけている。何だかあっけらかんとした愉快な人のようだ。
二人からそう言われて、私は心臓がヒュンと縮こまるような思いがした。
兄さんとの約束を果たすために調査兵団に入団したのだし、入団式でその思いを言ったことも後悔はしていない。
だけど…何だか無用に目立っちゃってるみたいだし……やっぱりちょっとマズかったかなぁ…。