第6章 壁外調査に向けて
手に持ったパンを食べることもなく、シュンと肩を落としている私に気がついたのか、ゲルガーさんが、小さな子をあやしつけるような声を出して言った。
「なーにしょぼくれてんだよ。別にお前のことを変だなんて、これっぽっちも思ってねぇからな。
巨人の絵!大いに結構じゃねぇか。俺もお前が描いた絵を見てみたいよ。そんな顔することなんか、少しもねぇんだぞ」
そう言って、ゲルガーさんの大きな手がテーブル越しに伸びてきて、ワシワシと頭を撫でられた。
「そうだよラウラ。私たちはね、楽しみにしているんだ。色んな志を持って入団してくる若い世代を。
その中でも特に、君の目標は興味深いものだと思うんだ」
ゲルガーさんの手でぐしゃぐしゃにされた髪の間からナナバさんの顔を見上げると、ナナバさんは春の日だまりのような柔らかな笑顔を浮かべて私を見ていた。
ふと、先ほど食堂に向かう道中でナナバさんが笑っていたことを思い出した。
あの時は俯いてしまったからナナバさんの顔を見ることはできなかったけれど、もしかしたら今みたいな顔で笑っていたのかもしれない。
「でも、まずは生き残ることだ。死んでしまったら何事も成すことができないからね。ちゃんと生きて帰ってきて、それで絵を描くんだ。
間違っても遺作になんてしないでくれよ?」
今度はナナバさんのスラリとした細い指が伸びてきて、ゲルガーさんにぐしゃぐしゃにされた髪を、ちょいちょいと整えてくれた。
「はい!」
二人に応援されて何だか嬉しくなってきた私は、勢いよく返事をした。
私を見つめるナナバさんとゲルガーさんの眼差しは、兄さんが私やエリクを見るときのものに似ているように感じたのだった。