第6章 壁外調査に向けて
配属班のメンバーが顔を合わせたのは、私たち新兵がネス班長の講義を受けた一週間後、初めての実技訓練の時だった。
ウォール・ローゼ領内の平原において行われた訓練で、私たちはそれまでの一週間でみっちりと叩き込まれた長距離索敵陣形を実演してみたのだった。
訓練は朝早くから始まった。
陣形を組織してから展開し、撤退行動に移るまでの流れを、何度も何度も繰り返しては陣形の微調整を行った。
ここまで徹底的にリハーサルを行うのだということを知り、改めて調査兵団のレベルの高さと、壁外に赴くに当たっての準備の大切さを学んだ。
馬も兵士たちもへとへとになった夕方頃、訓練はやっと終了した。
兵舎へと帰ってきた私は、先輩たちの馬も引き連れてとりあえず厩舎に向かうと、水や干し草を馬たちにやった。
長い時間訓練に耐えてくれたこの子たちを、早く労ってやらなければいけないと思ったからだ。
ネス班長が言っていた『馬との信頼関係が大切』という言葉を思い出す。
それに私はもともと馬が好きだし、特別意識してのことじゃない。自然な感覚で世話をしているに過ぎない。
「おーい、ラウラ。食堂に行くから早くおいで~」
フンフンと鼻を寄せてきた子の顔を撫でていた時、少し離れたところから私を呼ぶ声が聞こえた。
声をかけてきたのは、今回同じ班に配属されたナナバさんだ。
ナナバさんは年齢・性別不詳の中堅兵士であるが、唯一ハッキリ分かっていることがある。
それは超絶美形だということだ。細身でスラリとした体型をしていて、背も高い。透けるように白くて滑らかな肌に、まるで人形のように整った顔立ちをしている。
まさに「王子様」と形容するに相応しい容姿だ。
今までに幾度となく壁外調査で死線をくぐり抜けてきたナナバさんは、訓練の時の動きにもムダがなく、的確でかつ美しかった。
今日、ほんの数時間一緒にいただけでもナナバさんから学んだことは山のようにあるから、もっともっと色々なことを見習っていけば、私も少しは早く一端の兵士になれるかもしれない。