第6章 壁外調査に向けて
「調査兵団の先輩として、お前らに一つ教えてやろう。
これは俺が今まで壁外調査に参加して思ったことだが、壁外では何といっても馬との信頼関係が大切になる。彼らの助けがなければ、俺たちは壁外で10分も生きちゃいられないだろう。
馬は非常に頭の良い動物だ。信頼した相手にだったらどんなに過酷な状況でも尽くしてくれる。壁外では彼らと協力し合って生き抜くんだ。
各自しっかり世話をして、信頼関係を作っておけよ!」
はっ!と新兵たちが返事をするのを聞いて、ネス班長は微笑んでから、おもむろに頭に巻いていた布に手をかけた。
一体何をするのだろうと思って見ていた次の瞬間、スルリと布が剥ぎ取られて、その下からは満月のように綺麗な禿頭が現れた。
ちなみに毛髪が無いのは頭頂部のみであり、側頭部や後頭部には普通に生えていた。
まさかタオルの中がそんな風になっているとは思いもしなかったので、一瞬呆気に取られてしまった。
多分みんなも同じ思いだったみたいで、「あっ」と息をのむ雰囲気が感じられた。その後は、完全なる沈黙が訪れる。
誰も物音ひとつ立てない。だけど、ネス班長はそんな雰囲気に気づいていないのか気にしていないのか、ニカッと相好を崩して笑った。
「ちなみに俺の愛馬はシャレットと言う。いつも俺を支えてくれている、大切な相棒だ。
シャレットは俺のことを愛しすぎて、愛情表現で頭の毛をむしるんだ。お前らも、俺の頭みたいになれるよう努めろよ!がははは!」
ネス班長の豪快な笑い声だけが広い作戦会議室内に響き渡って、それは部屋の壁や天井に染み込んでいくようにして消えていった。
しん、と静まり返った後、皆が「はは…」と曖昧な笑い声を上げる。完全に、ネス班長への気遣いのみからくる愛想笑いだ。
だってそれは笑っていいことなのか分からなかったし、それに「頭の毛をむしられるのは、シャレットに嫌われているからでは…?」という疑問が頭をよぎって仕方が無かったから。
なんだろう、空気って目に見えないのに、たまにその場の雰囲気が手に取るように分かる時があるんだよなぁ。
みんなが同じ気持ちでいるのを感じて、「これが一体感…」などとくだらないことを考えていたら、本日の講義は終了した。