第6章 壁外調査に向けて
「お前たち新兵が配置されるのは、荷馬車護衛班と索敵支援班の中間だ。ここで予備の馬と並走し、適宜伝達をしてもらう」
ネス班長の説明を、皆真剣な表情で聞いていた。
それも当然のことだろう。だって、陣形の理解が不十分だったり作戦の誤認があった場合、それは自分や仲間の命を危険にさらすことに直結しかねないから。
失敗しても”怪我”で済んでいた訓練兵の頃とはもう違う。私たちは、命を賭して戦う調査兵になったんだ…。
ネス班長はテキパキとした明朗な話し方で説明をしてくれるので、まるで乾いた布が水を吸うようにして知識が頭に染み込んでいくのを感じた。
入団式の時も思ったけれど、ネス班長はとても優秀な人だ。
見た目から判断するに結構なベテラン兵士だろうから、死亡率の高い調査兵団で今までずっと生き残ってきて、頭も体も本当に優れているのだろう。
私は、講義の内容をカリカリとノートに書き込んでいった。
文章だけでなく、図も適宜織り交ぜながらメモを取っているので、自分で言うのもアレだがけっこう分かりやすい。後で見返してもよく理解できる。
そう言えば訓練兵時代、対人格闘術が苦手だった私は、勝つための考察をノートにまとめていたことがあった。図や挿絵を入れて工夫したので、結構見やすいものだったと思う。
そのノートを、同期に貸してくれと言われたことがあった。
「すごく分かりやすかった」と言って返してくれたけれど、また貸してほしいと頼んでくることはなかった。
それってつまり、本当は分かりにくかったってことなんだろうか?そんなことを思っては、少し寂しくなっていたっけ…。
講義が始まってから一時間ほどの時間が経った。皆、机の下で足をもぞもぞさせたり、あくびを噛み殺したりし始めるようになってきた。
そんな新兵たちの様子を見て、集中力が切れてきたことを素早く察知したらしいネス班長が、一息入れるようにして少し表情を緩めた。