第28章 旧調査兵団本部
食事を終えた兵長は、食器を片付けると言い張って譲らなかった。
兵士長にそんな雑用をさせる訳にはいかないので私も引く訳にはいかなかった。そのまま押し問答を続けた結果、一緒に片付ける事になってしまったのだった。
食器の乗った盆をどちらが持つかでもちょっとした攻防があったが、結局兵長が持つ事になった。
「俺は料理は得意じゃないが、片付けくらいならできる」
そう言った兵長の言葉で、私はやっとピンと来た。
そうだ…兵長は掃除が好きなんだった。だからこの食器洗いは「やらなければいけない事」ではなく「やりたい事」だったのだ。
それに気づいてからは、私はもう不必要に恐縮することをやめた。むしろ、兵長のやりたい事を取り上げようとしていた事を反省した。
一緒に調理場へと向かいながら、隣を歩く兵長の足音に耳をすませる。
カツ、カツと落ち着いた音が響く。足音だけでも、その身体能力の高さが伝わってくるようだ。
食堂の横を通った時、兵長がふと足を止めた。その視線の先に私も顔を向けると、扉の隙間から明かりが漏れていた。
「まさか…まだ…」
そっと中を覗いてみると、そこにはハンジ分隊長とエレンの姿があった。
分隊長は身振り手振りを交えて楽しそうに話していたが、一方でエレンの表情は力無くぐったりとしていた。