第28章 旧調査兵団本部
多分、時間にして数秒の間だったと思うが、はっと気を持ち直したとき、何でそうなったのかは全く分からないのだが、兵長が私の頬を撫でていた。
「おかしな奴だな」
そう言って私を見つめる兵長の眼差しはとても柔らかくて、切れ長の瞳と目がかち合った時、ドクンと私の心臓は止まりそうになった。
少しだけカサついている兵長の指が頬を撫でている。
すぐにその手は離れていったが、兵長はそのまま壁に手を付いた。私は兵長におおいかぶさられるような格好になり、バカみたいに硬直しているしかなかった。
兵長は私がやったように窓から夜空を見上げると、「あぁ確かに、今夜は月が綺麗だ」と言ったのだった。
その横顔は、背後からのランプの灯りと、窓から差し込む微かな月明かりに照らされて、少し影ができていた。
何て格好いい横顔なんだろうと思った。あぁ、後でこの顔をスケッチしておこう…。なんて、思わず見とれながら私は思ったのだった。
絵の事を考えたら、不思議と落ち着いてきて、席に戻った兵長が食事を再開されたので、大したことはできないが隣に立って給仕をしたのだった。
まだ湯気を立てているスープを口に運びながら兵長が言う。
「美味いな」
「あ、ありがとうございます!」
思いがけずほめられた事で嬉しくなり、その一言で私はやっと普段の調子に戻った。
喜々として給仕をする私の事を見て、フッと兵長が笑ったような気がした。