第28章 旧調査兵団本部
今日、この古城の掃除には班員全員で取り掛かっていたのだが、実は私には城内の掃除ではなく、調理場の清掃と食事の準備が指示されていた。
私が引いてきた荷馬車には、あまり十分とは言えなかったが調理器具や食材が積み込んであり、私に与えられた任務はそれを使って夕食を作る事だった。
もともと料理は好きな方だし、訓練兵時代も当番でやっていたので、そんなに難しい事じゃない。
私は入念に調理場を掃除した後、パンとスープとサラダ作りに取り掛かったのだった。
〇
普段は張り詰めた雰囲気の多い調査兵団だが、食事の時くらいは、軽い冗談なども言いながら和気あいあいと会話が弾む。
ホカホカと湯気の上がるスープを口に運びながら、ぺトラが言った。
「兵長のお掃除チェックや紅茶チェックで、『やり直し』が無いのはラウラくらいなのよ。まったく、絵の才能だけじゃなくて掃除や料理の才能まであるなんて、本当にうらやましいわ」
同様にスープに口をつけたエレンも、少し目を見開いて言う。
「美味い…」
とても懐かしい味が口いっぱいに広がり、エレンはふと、母の手料理を思い出す。
ベーコンが少しだけ入った、野菜たっぷりのトマトスープ。
器によそったばかりでまだ熱々のスープを、慌てて食べていつも舌を火傷する自分を叱る母の顔。
(まったくこの子は…)
そう言ってよく頭を撫ぜてくれた。
どうしていきなりこんな感傷的な気持ちになってしまったのだろう。訓練兵時代、ミカサが食事当番で作ってくれるスープだって、母の作ったものと同じ味がしたのに。
(きっと…ラウラさんが優しくしてくれるせいだ。母さんがよくやってくれたみたいに、俺の頭を撫でてくれるから…)
うっすらと浮かんできた涙に自分でも驚いたエレンだったが、ぺトラ達に気づかれないうちにサッと拭うと、泣き顔をごまかすようにガツガツと勢いよくパンをかじり食べ始めた。