第28章 旧調査兵団本部
「おい、準備できたかお前ら。行くぞ」
いつの間にか兵長もやって来ていて、その隣にはエレンが立っていた。
不安そうにキョロキョロと泳いでいる視線とかち合ったのでニコリと笑いかけてやると、エレンは、面食らったような表情をした後に、ちょっとはにかんで笑ったのだった。
弱ったなぁ…、と思った。
こういう笑い方をされると余計に弟の姿に重なって見えて可愛くなってしまうじゃないか。
まだこの子の正体も分かっていないのだから、あまり感情移入しない方がいいことは分かっているんだけど…。
私たちは荷馬車に持ち物を積み込むと、旧調査兵団本部に向かって出発した。
道中は、エレンを囲むようにして馬を進める。
先頭を行くのはエルドさんとグンタさんだ。その後ろにエレンとオルオ、三列目にペトラと兵長がいて、私はその後ろから荷馬車を引いていた。
少し高さのある荷台に座っているせいで、後ろから皆の様子がよく見えた。
兵長の視線が外れることがないので、エレンは終始緊張している様子だった。そんな彼に、隣を歩いていたオルオがススッと近寄っていく。
(ん?心配して何か声かけてあげるのかな?)
などと思ったら、全然違った。
前方から聞こえてくる話し声で、オルオが何やらエレンに絡んでいるらしいことが分かった。
「お前のような小便臭いガキにリヴァイ兵長が付きっきりになるなど…」
心底おもしろくなさそうな顔をしてエレンに凄んでいる姿には、さすがの私も「大人げないなぁ」と少し呆れた。
だけどやっぱり、その姿はちょっと微笑ましく見えてしまうのだった。
オルオの行動は全て兵長への敬愛が原動力になっていることを知っているから、見ていてホントに健気で可愛い。