第27章 巨人になれる少年
エレンのことはまだまだ理解しきれていないし、どう接していったらよいのかも分からない。
だけどそれはひとまず置いておこう。少なくとも今は、怪我の手当てが必要なのだから。
布を当てて頬を冷やしているエレンを見下ろして、彼が少しでも安心できるようにと私は微笑みかけた。
「後で医務室へ行こうね」
そう言って、彼の少し乱れた髪をチョイチョイと直してやると、エレンは少し照れくさそうにコクリと頷いた。
やはりこうしていると、普通の少年にしか見えないのだった。
「なぁ、エレン」
ふいに兵長が、私とエレンを分断するように割って入ってきて、そのままドサッとソファに腰を下ろした。
「俺を憎んでいるか?」
ちら、とエレンを見たリヴァイ兵長の表情に、さっきハンジ分隊長に言われたことを気にされてるのかな?などと思ってしまった。
そう思うと、なんだか胸の奥がムズムズするような、温かくなるような気持ちになるのだった。
こういうところなんだ、兵長の魅力は。
大変失礼なのだが、何だか可愛いのだ。素直じゃない感じが特に。
「い、いえ…必要な演出として理解してます」
兵長が隣に座った瞬間ビクッとエレンは肩を揺らしたが、その返事はとても従順なものだった。
それはそうだろう。だって先程まで情け容赦のない蹴りを見舞ってきた人間が、また急に至近距離に寄って来たのだから、誰だって恐怖を感じる。
エレンはまた、怯えた子犬のような顔をしていた。
あれほど痛めつけられればもう、兵長に逆らおうなどとは思わないだろう。まさに躾けられた犬のようだ。