第27章 巨人になれる少年
「しかし限度があるでしょ…」
たしなめるような表情で言いながら、ハンジ分隊長は懐からハンカチを取り出して、包んでいた何かをエレンの前に差し出した。
みんなの視線がそれに注がれる。
ハンジ分隊長が持っていたのは、リヴァイ兵長に蹴られた際に抜け落ちたエレンの歯だった。
(また随分とキレイに抜けたものだな…)
などとつい感心してしまった。
虫歯一つ無い真っ白でキレイな歯が、医学書に載っている通りの形でコロンとハンカチの中に転がっていたからだ。
一体どれほどの勢いで蹴飛ばせば、歯が抜けるというのだろう。
兵長は「手加減した」と言っていたけど、こんなものを見せられては、やっぱりあまり加減していなかったのかな?と思ってしまう。
それか、人類最強の兵士の感覚で言う“手加減”は、常人の本気の数倍の威力に匹敵するものなのではないだろうか…。
怖いのでこれ以上は考えないようにしよう。
…
そんな事を考えていたラウラの横で、エレンの口腔内を確認していたハンジが驚嘆の声を上げたのだった。
「歯が生えてる」
一斉にエレンの口元へと視線が集まる中、視線だけでなく身体ごとすっ飛んでいった人物がいた。
言わずもがな、ラウラだった。
「えっ、どこですか?!」
ラウラはコバルトブルーの瞳をカッと見開いて、ハンジに勝るとも劣らない勢いでエレンの口の中を覗き込んだ。
ポカンと大口を開けていたエレンはそんなラウラの様子を見て、また別の意味であんぐりと大きく口を開ける。
「え…ラウラさん…?」
先ほどまでの穏やかさなどどこかに吹き飛んで、人相すら変わっているように見えるラウラの姿に、エレンは言いようのない恐怖を感じたのだった。
「オイ…お前の方こそ、加減しやがれ。いきなりそんな目で見たら、コイツが可哀想だろうが」
エレンの隣に座るリヴァイは、らんらんと瞳を輝かせているラウラの姿を見て、呆れたように首を振ったのだった。