第27章 巨人になれる少年
私はエルヴィン団長から指示のあった通り、エレンの姿をスケッチした。
彼は膝をついて座っているだけだから、そんなに動くことも無いだろう。
当初はそんなことを思っていたけれど、それはとんだ間違いだということがすぐに分かった。
エレンは声を張り上げて主張する場面が何度もあって、拘束されているとは思えないほどの動きをした。
だけどそれ以上に…兵長からの暴行で、サンドバッグのようにグワングワンと身体を揺らすことになったのだった。
私は傍聴席の最前列で、誰よりも間近でその様子を見ていたので、エレンの整った顔がみるみる内に血で染まっていく姿に、血の気が引く思いだった。
エレンを蹴る兵長はポカンと口を開けていて、それを無表情と言っていいのか分からないけれど、感情のこもっていないガラスみたいな目をして、全く躊躇なくエレンを足蹴にしていた。
その姿に、私は怖くなった。兵長のあんな顔を見たのは初めてだったから。
普段からそんなに感情を表面に出さない方ではあるが、最近は柔らかい表情をする事も増えていたので、おかしな話だが兵長の怖さを忘れていたのだ…。
一際強く兵長がエレンの顔を蹴った時、彼の口から何かが飛び出して、コロンと床に転がった。何だろうと思って目で追ったら、それは白くてキレイな歯だった。
よく見たら、他にも一本転がっているのが見えた。
エルヴィン団長が挙手をしてエレンの処遇について提案するまで、私は絵を描くのも忘れたまま呆然と、兵長がエレンを折檻する様子を見つめていた。