第27章 巨人になれる少年
私は小脇に携えていたスケッチブック数冊と、布に包んでいたキャンバス一つをテーブルの上に広げた。
ニコニコしていた総統の表情が、スッと真面目なものに変わる。
奪還作戦の日から今日まで数日しかなかったので、ほとんどはスケッチになってしまった。色をつけられたのは、キャンバスに描いた一枚だけだ。
それは、巨人が大岩を担いで運んでいる姿を描いたものだった。
「……これがエレンだね?」
その唯一色のついた絵を、総統は真っ先に手に取った。そして表情を曇らせながら、まじまじと絵を見下ろしたのだった。その目は厳しい。
「はい」
私が頷き、隣に座ったハンジ分隊長が当時の状況を簡単に説明する。
「なるほど…報告書で事の顛末は当然知っている。だが肝心のエレン巨人がどんな姿をしておるのか、今ひとつイメージできていなかったのだよ。ラウラ、君の絵があると本当に助かる」
総統は絵をテーブルに置き、視線を私に向けた。
その眼差しは、先ほどまで絵に向けていたものとは打って変わって、まるで祖父が孫を見るような柔らかな視線だった。
「以前君に描いてもらった絵を、時折見ているんだ。あれは私にとっての戒めだ。あれのおかげで、前線で兵士たちがどのような状況で戦っているのかを、指導者として常に忘れないでいられる」
そう言ってにっこりと微笑んだ総統に、私は光栄な気持ちで嬉しくなる。だがそれと同時に、亡くなっていったたくさんの仲間達の顔を思い出して胸が苦しくなったのだった。