第27章 巨人になれる少年
さっき、ラウラが涙を流し始めた時。
いつもと同じで、コイツは自分が泣いていることに気づいていなかったのだろう。
まるで人形のように美しいラウラの横顔が歪むのを見た俺は、胸が締め付けられたように苦しくなった。その泣き顔がどうしようもなく不憫に思えた。
コイツは、この小さな身体の内にどれほどの悲しみを抱えているのだろうか。
ラウラがこんな風に泣きながら絵を描いているのを見るのは、それこそ初めて出会った時からだ。
あの時もコイツは、泣き声一つ上げずに涙をこぼしていた。その過去を知れば涙の理由は容易く理解できたし、俺はそれに同情した。
この2年の間に、ラウラの泣き顔を一体どれだけ見ただろう。心の傷が完全に癒えるまでには何年も…何十年も…、もしかしたら一生消えることはないのかもしれない。
泣きながら絵を描くことがラウラの心の傷を癒す手段になるのなら、俺はそれを隣で見守ってやりたい。
そんな気持ちで俺は、この2年間ラウラの隣にいたつもりだ。
だがそれは、考えが甘かったようだ。
ラウラの心の傷は決して消えることはない。
場面を切り取ったように精巧な絵と同じように、いつまで経ってもコイツの心の中には鮮明にその時の光景が刻み込まれているのだ。
残酷な光景はコイツの中に蓄積されていく。
それがもし収まりきらずに溢れ出してしまったとしたら、その時きっとコイツの心は壊れてしまうのだろう。
そんなことさせるか。
どんなに忙しくても俺がラウラのもとを訪れていたのは、こんな風に泣いているラウラを一人にしておきたくなかったからだ。
「傷」を消すのが無理なら、「傷」に耐えられるよう支えてやればいい。
…それだけの事だ。