第27章 巨人になれる少年
しかし、ラウラが次々と描き上げていく絵を見ていると、コイツのこの宝石のような瞳に一体どれほどの残酷な光景が映ったのだろうかと、やるせなくなってくるのだった。
できることならそんな光景が見えないように覆い隠してしまいたい。もっと美しくて楽しいものだけを見せてやりたい。
そんな事を思うのは俺のエゴなのだろうか。
ふとラウラの手元を見ると、トロスト区奪還作戦の時のものと思われる光景が描き出されていた。
巨人が兵士達の身体を食いちぎっている。立体機動を使わず、自分たちに注意を引くためにあえて地面を走った勇敢な兵士達のことを。
兵士を食う巨人たちの後ろには大岩を担いだ「エレン」の姿もあって、それを改めて見ると、コイツが穴を塞いだのだということを今更ながら実感するのだった。
しばらくの間は、シュッシュッと鉛筆が紙を滑る音が規則的に響いていたが、次第とその音は不規則になっていき、それから止まってしまった。
止まった鉛筆の先には、巨人の口の中に押し込まれた兵士の姿。
こちらを向いたその顔は真っ白のままで、表情が描かれていないからこそ、余計に残酷に見えた。
ラウラの両目から、まるで川が決壊したみたいに大粒の涙がボロボロとこぼれ落ち始めた。
白い頬を次々と涙が流れていき、ラウラのズボンにシミを作っていく。
ラウラが泣きながら絵を描いていることなどいつものことだ。
だが今日は、何かが違った。
おそらく俺が知る限りでは初めて、絵を描いている最中に手が止まった。
ラウラはどんなことがあろうとも絵を描く手を止めることはなかったのに。
そして、いつもは彫刻のように微動だにしない泣き顔を、まるで子どものようにくしゃりと歪めたのだ。