第27章 巨人になれる少年
スケッチブックに線を描き込んでいくにつれて、頭の中にある情景が明瞭に紙に浮かび上がってくる。
だけど一点だけ、イアン班長の顔だけは…どうしても描けなかった。通常、遺族への配慮で顔をそのまま描くことはなく、少し変えて描くのだが、それでも無理だった。
巨人の口から顔だけを出した格好になった兵士は、のっぺらぼうのままだった。
シュッシュッと鉛筆が紙の上を滑る音だけが聞こえ、他には何も聞こえない。
絵を描いている時にはいつもそうだけど、これ以外の音は聞こえない。
「聞こえていない」だけなのか「静か」なのかは分からない。今の私には判断がつかない。
不思議な感覚。頭の中は高速で回転して、胸はドクドクと激しく脈打っているのに、表面はまるで静まり返った水面みたいだ。
「……おい」
突如として身体を引かれ、グラリと体が傾いた。
「え…?」
身体のバランスが崩れ思わず踏ん張ろうとした時、まるですっぽりと収まるように、私の身体はがっしりとして硬い何かに包み込まれた。
そこが兵長の腕の中だということに気付いたのは、数秒経ってからのことだった。