第27章 巨人になれる少年
そんな訳で明日の出発は早い。
それなのに、リヴァイ兵長はいつも通り私のアトリエにいらっしゃっていた。
私は、怒涛のスケジュールの中、昨日の夜までで壁外調査の報告の絵を描き終えており(とりあえずスケッチだけだが)、今日の夜からはトロスト区奪還作戦の絵に取り掛かかっていた。
退却令がエルヴィン団長から出されてから壁内に戻るまでの道のり、壁に到着した時に繰り広げられていたトロスト区奪還作戦の様子、後日行われた巨人の掃討作戦・捕獲作戦の事…、この数日にあった出来事を思い起こす。
頭に焼きつけた記憶を思い起こしながら、スケッチブックに線を引いていく。
壁に空いた穴を塞ぐため、多くの兵士が犠牲になった光景がありありと浮かんでくる。あの時「エレンを死守せよ」と叫んだ声、…あれはイアン班長の声だった。
私の手はいつの間にか、イアン班長が巨人の口に押し込まれている光景を描き出していた。
あの時、首が切断される刹那…私はイアン班長と目が合ったような気がした。
普段は鋭く細められている瞳は大きく見開かれ、その表情には恐怖だけではなく様々な思いが浮かんでいたように感じた。
イアン班長とはまだ知り合ってそれほど期間は経っていない。
だけど、ピクシス司令達と一緒にお酒を飲んだ時、色々なことを話した。兵士としての目標だったり、任務に取り組む姿勢などについてだ。
短い時間だったけれど、本当に真摯に任務に向き合っている人なんだと感じた。この人もまた、素晴らしい兵士なのだと心の底から尊敬した。
兵団も違うし階級も違うから、それほど会う機会は多くなかったけれど、私の姿を見かけた時には気さくに声をかけてくれた。
真面目で厳しい人だけど、それと同じくらい優しい人だった。