第26章 兵長のおまじない
深夜を回った頃、ラウラに見張りの順番が回ってきたらしく、前任の兵士が近寄ってきた。
だが、そいつが声をかける前にラウラは目を開けた。暗闇でもよく分かるほどスッキリとした顔をしてやがる。
突然起き上がったラウラに、声をかけようとしていた兵士が驚いて声を上げる。
「うわっ!びっくりした。…もしかして眠れなかったのか?」
あまりにもすぐに反応したので、ラウラが眠っていなかったと思ったらしい。
どうやらラウラは、寝付きも寝起きも良く、短時間でも効率的に身体を休める術を身につけているらしかった。こんな特技があったとは知らなかった。
昼夜を問わずに働く兵士にとっては、とても重要なことだ。兵士の中には不眠に悩まされる者も少なくないから、こんな体質の奴もなかなか珍しいだろう。
「いえ、良く眠れました。交代ですね?お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
そう言ってラウラは、前任の兵士からランプを受け取ってニコリと笑った。
ランプに照らし出された整った顔が美しく笑みを浮かべるのを見て俺は、「あの笑顔が俺だけに向けられればいいのに」などと、また甘ったるいことを考えてしまったのだった。