第26章 兵長のおまじない
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夜も更けてきて、消灯の号令が聞こえてきた。見張り当番の兵士が、ランプを持ちながら焚き火の始末をして回っている。
一応テントは張ってあるものの、到底全員は入れないので、兵士たちは各々適当な場所で横になった。
俺は普段眠る時も横にならないし睡眠時間も短いので、全体が見渡せる位置で木箱に寄りかかっていた。
ラウラも、先ほど話していた流れで俺の近くにいる。
すぐ隣で寝床の準備をしているラウラをチラリと見て、俺は内心密かにホッとしていた。
こんな事態だ。いつ何が起こってもおかしくない。自分の手の届く範囲にラウラがいてくれるのはありがたかった。これで、いつでも守ることができるからだ。
こんな時に私情を挟むのは良くないが、しかし一応ラウラは、ハンジ同様に特別作戦班で護衛する対象になっている。
だからあながち個人的感情だけという訳でもない。仮に俺が近くに呼び寄せたとしても不自然ではないだろう。
見張りの兵士が回ってきて、俺たちの近くの焚き火を消した。
フッと辺りが真っ暗になるが、すぐに暗闇にも目が慣れていく。そうでなくても今日は月明かりが明るい。
「兵長、おやすみなさい」
ラウラがペコリと頭を下げてから横になる。毛布をかぶって身体を丸くすると、小柄なラウラはまるで子どものように見えた。
「あぁ、おやすみ」
こんな状況なのに、どうしてこんなに穏やかな言葉のやり取りができるのだろう。
ラウラには不思議とその場の空気を穏やかにする力があるようだった。