第26章 兵長のおまじない
私たちはしばらくそのまま、何も話さずにただ街を見下ろしていた。
「…あ、そう言えば。まだ完全に任務が終わった訳ではありませんが、今回も何とか帰ってくることができました。兵長のおまじないのおかげですね」
ふと思い出して、私はそう言った。
昨日、壁外調査前で不安を感じている私に兵長が「お前は無事に戻ってくる」と言って頭を撫でてくれたのだ。
まさか兵長がそんなに可愛らしいことをするとは思わなかったので驚いた。だけどとても嬉しかったのだ。
「ありがとうございます」
そうお礼を言うと、兵長はこちらを見ないまま話し始めた。
「本番はむしろ明日だ。壁の中に閉じ込めてある巨人共を、一気に始末するんだからな。明日死ぬなんてヘマはするなよ?」
「はい!」
「よし。いい返事だ」
そう言って兵長は私の髪をサラリと撫でた。
なんだろう?またおまじないかな?
私は嬉しくなって、兵長が撫でたところを自分でも撫でて笑った。
「……お前、分かってないだろう」
「??おまじない…、ですよね?明日も死なないようにっていう」
「…あぁ、まぁ、そうだな。正解だ」
珍しくちょっと困ったような顔をした後、兵長は唇の端を少しだけ上げたのだった。